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最高裁判所第一小法廷 昭和24年(オ)329号 判決 1953年5月28日

東京都品川区二葉町一丁目四五三番地

上告人

多田文五郎

右訴訟代理人弁護士

五十嵐与吉

同都同区二葉町一丁目四五七番地

武笠丁五こと

被上告人

武笠丁吾

右当事者間の家屋明渡請求事件について、東京高等裁判所が昭和二四年一二月三日言渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告申立があつた。よつて当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人弁護士五十嵐与吉の上告理由について。

原審において上告人は、被上告人の前主である訴外三宅錦五郎と鈴木光衛との間の賃貸借契約に基く鈴木光衛の賃借権を、賃貸人である右三宅錦五郎の承諾を得て譲受けたものであるから、本件家屋を占有する権利を有し不法占拠ではない旨をもつて抗争したものである。それ故、この主張が成立するためには、(一)上告人と鈴木光衛との間に賃借権の譲渡があつたこと、(二)この賃借権の譲渡を賃貸人である訴外三宅錦五郎が承諾したことの二つの事実が肯認されることを要するわけである。原判決においてはこの(一)の事実の有無については判然たる認定をしないで、「乙第五号証によれば、鈴木光衛より三宅錦五郎へ入れた敷金の領収証が控訴人の手中に存する以上賃借権が鈴木光衛から控訴人(上告人)へ譲渡せられたかの如き疑があるが、仮りに然りとしても前認定の如くに家主三宅錦五郎に於て賃借権の譲渡を承諾した事実」が認められないから上告人の本件家屋の占有は不法と認める外はないと認定したのである。すなわち、原判決は、(一)の事実の有無については確たる認定をせず、(二)の承諾の事実については判然と否定的な認定をしている。それ故、原判決が上告人の抗弁を排斥する判示としては、これで十分であつて欠くところはなく、正当である。なぜならば、この場合上告人の抗弁を排斥する方法としては、前記(一)及び(二)を共に否定してもよければ、また(一)又は(二)の何れか一方を否定するだけでも事足るからである。所論のように、上告人の抗弁を排斥するためには必ずしも賃借権譲渡の事実の有無を判定することを要するものということはできない。されば、原判決にはこの点において所論の違法は存在しない。その余の論旨は事実誤認の主張であつて上告適法の理由とは認め難い。

上告理由追加書による論旨は、期間経過後の提出にかかるから、判断を与えない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 岩松三郎 裁判官 真野毅 裁判官 斎藤悠輔)

昭和二四年(オ)第三二九号

上告人 多田文五郎

被上告人 武笠丁吾

上告代理人弁護士五十嵐与吉の上告理由

第一点

原判決(控訴審)ハ其理由中本件賃借権譲渡ノ有無ニ付テハ後廻シニシテ其後段ニ於テ、右譲渡ト不可分的関係アル且三宅錦五郎ノ右譲渡ニ対スル承諾(又ハ承認)又ハ賃料領収証が鈴木光衛名義宛トナリ居ル趣旨等順次其成立上又夫レ等ノ判断上関聯ヲ持ソ成立ニ争無キ敷金領収証(乙第五号証)ヲ上告人が所持スルコトノ事実ニヨリテ但同様不可分的関係アル金百円ノ領収書(乙第五号証)ニ対シテハ全ク其成立及趣旨ノ判断ヲ為サズシテ敷金領収証が控訴人の手中に存する以上賃借権が鈴木光衛から控訴人へ譲渡せられたかの如き疑があるが。ト為サレ少クトモ賃借権譲渡ノ疑ノ存スルコトハ認定セラレタルモ之ガ真ニ存否ノ判断ハ避ケ之ヲ為サレズシテ、単ニ其存在ハ仮定ノ下ニ当事者間ニ争ヒトナリタル事実ノ其成立上又判断上前提中心或ハ少クトモ関聯アル右賃借権譲渡ノ存在又ハ少クトモ其疑ノ存在ヲモ全ク考慮ニ入レズシテ為サレタル前段ノ認定ヲ以テ漫然、仮に然りしとしても前認定の如くに家主三宅錦五郎に於て賃借権を譲渡の承認したる事実が認められず、ト為シ以テ承認ノ法律要件ヲ欠クガ如ク判示セラレ賃借権譲渡ノ事実ノ存否ヲ判断ノ要無キガ如クシテ、更ニ賃借権ノ譲渡及承認(又ハ承諾)ノ存スル場合ハ何等法律上存在スル余地無キ又ハ対抗ノ余地無キ被上告人ト鈴木光衛間ノ合意解除サレタリトスル事実ヲ然モ前記同様賃借権ノ譲渡ノ存在少クトモ其存在ノ疑ノ存スルコトヲ全ク考慮セズシテノ前段ノ同意解除ヲ為サレタリトスル認定ヲ以テ、殊に被控訴人と賃借人鈴木光衛との間の本件建物の賃貸借契約が合意の上解除迄された以上控訴人の本件建物の占有は所有者の被控訴人に対して不法と認める外なく、トシテ恰モ三宅錦五郎ノ承認又ハ承諾ヲ得テモ上告人ノ権限ヲ消滅シタル如ク或ハ上告人ノ権限ハ全ク鈴木光衛ノ賃借権ノ如何ニ左右セラルヽモノヽ如ク判示セラレタルモノニシテ、若シ此場合賃借権譲渡ノ存シタルコトヲ認定セラレ又少クトモ現ニ認定ノ疑ノ存スルコトヲ考慮ニ入レ前段ノ、原審並に当審に於ての控訴人本人の供述(原審は第一、二回)中この点に関して控訴人の主張に副ふ部分は当裁判所が本件の真相であると認定する次の事実から考へて採用出来ない即ち……トナシタル「次の事実」タル以下、原審並に当審に於ての控訴人本人の供述(原審は第一、二回)中叙上認定に抵触する部分は孰れも採用しない。との記載迄ノ各認定事実ヲ先ツ賃借権譲渡ノ事実又ハ其疑ノ存スル事実ヲ前提又ハ中心トシテ順次上告人ト被上告人ノ主張ニ基キ比較考覈スレバ殊ニ証人ノ証言ニヨリテモ右上段ノ「次の事実」ノ認定ハ殆ンド容認ノ余地無ク上告人主張ノ事実ノ真実妥当ナルコトヲ窺ヒ得ラルベク少クトヒ相当影響アルベキコトハ容易ニ窺ヒ得ラルトコロニシテ、即チ原判決ハ上告人主張ノ賃借権譲渡及其承認(又ハ承諾)ヲ得タル事実ニ反スル認定ヲナサレ不法占有タルコトヲ判示セラレルハ、基本タル賃借権譲渡ノ事実及之ガ証拠ヲ先ツ判断セラルベキニ之ヲ遺脱シテ為サズ此事実ヲ基本トシ中心トシテ順次譲渡ノ承認ノ有無等ノ判断ヲ為スベキニ之ヲ為サズシテ各事実関係ノ関聯ノ本末順序ヲ顛倒シテ為サレ証拠ノ引用事実ノ認定法則ノ適用ヲ誤リ且判決理由齟齬又ハ少クトモ理由不備ノ違法アルモノナリ。

尚以上ノ点ニ付テハ控訴審ニ於ケル昭和二十四年十月四日付準備書面ニ基ク事実ノ主張並ニ更ニ追完スベキ主張ヲ引用シ詳述ス。

以上

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